逮捕者が不起訴を勝ち取る。日本国内から海外の合法オンラインカジノを利用しても処罰されない例ができた。
オンラインカジノで遊ぶ事は違法では無い。
オンラインカジノプレイヤーが対象となった賭博罪被疑事件で争った案件は国内でただひとつであり,そのひとつは,不起訴となった。
この様になった経緯。
警察のキャンペーン的な動きなのか、闇カジノの摘発などが多くあった2016年の3月10日に、日本で初めての「海外事業者によって運営される無店舗型カジノ(オンラインカジノ)を日本国内から遊んでいた日本人プレイヤーが逮捕される」という事件が起こった。
この事件では3名が逮捕され、拘留期間を終えた後、略式起訴で罰金刑が言い渡され、逮捕された方々は釈放されたと報道があったので、ご存知の方は多いはず。
もともと法律的にどちらともハッキリしない状態であったオンラインカジノでしたが、正式起訴後の裁判での判決も無いままに、検察が提示し逮捕者が了承した「略式起訴での罰金刑」という事実のみが結論となり、オンラインカジノは違法であるという事が正しいとされたのです。
この結論には、多くの法律家が疑問を投げかけており、やはり本当の所は、きちんと裁判になって判例が出来ないと判断ができないと言った声が多くあがっていました。
この事件について詳しくは以下の記事でご覧下さい。
→ 日本初の逮捕者が出たスマトラプレイヤーの結果から読み取る。
終わったと思われていた事件は争われていた。
一般の方がインターネットやテレビメディアのニュースで知る事件の内容は警察が流している事が多く、この事件についても「初の海外オンラインカジノプレイヤーの摘発」という事で、大々的にニュースが流され、その出口となった「罰金刑」も勝利宣言の様に情報がリリースされました。
なので、誰もがこの時点の情報でインプットが終わっていたのですが、新年になり大きな結論が出たことで、事件は罰金刑だけでは終わっておらず、裁判で争う姿勢を示した方が戦っていた事がわかりました。
彼らのほとんどは,略式起訴されることに応じて(これに応じるかどうかは各人の自由である)軽い罰金刑になることに甘んじたのであるが,そのうち1人は,刑を受けることをよしとせず,略式起訴の打診に応じず争いたいとの意向を示した。
日本では容疑をかけられた方の罪が決まるまでには、逮捕・拘留中に取り調べが行われ、正式起訴し裁判となるか、軽微な罪の場合は、略式起訴で罰金刑となるかなど、担当検事による決定がなされます。
略式起訴は、起訴されることになります。更には、略式命令がセットで付いてきて、言うならば、罪を認めてしまって、罰金を払うことで釈放されることです。略式起訴を認めた時点で有罪が決まります。
いずれの場合も、容疑をかけられた方が選ぶ事ができ、今回の方は、ここで担当検事が提示した略式起訴(罰金刑)の提示を不服として、裁判で争う方を選択したという事になります。そして、その判断をされた検察は起訴する事なく「不起訴(無罪)」を選択したのです。
不起訴処分には、その理由により、大きく言って、
(1)裁判における無罪と同様と言うべき、「嫌疑なし」あるいは「嫌疑不十分」を理由として行われる不起訴処分と
(2)証拠が充分でも、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の状況により訴追を必要としないとき」 にあたると認める場合に「起訴猶予」(刑訴248条)として行われる不起訴処分があります
担当弁護士の事件へのアプローチや実力が生んだ結果であるので、この結果を生み出した「技術」については外部の人間にはわかりようがありませんが、罰金刑で簡単に終わる事なく、裁判で争う事を選んだ勇気ある方の行動が、海外のオンラインカジノを利用する事に対する「これまでと違う解釈」を初めて示してくれたのです。
不起訴を勝ち取った担当弁護士の意見
このオンラインカジノ業界の未来に多大な影響を及ぼすであろう「不起訴」を勝ち取った弁護士「津田岳宏」さんがブログで意見を発信していたので抜粋紹介します。
賭博罪を専門とする弁護士として,新年早々非常に嬉しい結果を出すことができた。
私は昨年から,いわゆるオンライカジノをプレイしたとして賭博罪の容疑を受けた人の弁護を担当していたのであるが,これにつき,不起訴を勝ち取ったのである。
賭博罪の不当性を強く感じている私としても,本件は是が非でも勝ちたい事件であった。
本件のポイントは,いわゆる必要的共犯の論点で語られることが多かったが,私はそれは違うと考えていた。
これのポイントは,被疑者が営利目的のない単なるユーザーであり,罪名も単純賭博罪であるという点である。
今の日本は,競馬やパチンコなど,容易に合法的な賭博行為ができる環境が整っている。
つい先日には,カジノ法案も可決された。
そのような状況で,この微罪を適用して刑に処することが刑事政策的に妥当であるとは到底思えない。
単純賭博罪は撤廃すべきというのが私の主張であるし,少なくとも,この罪は今すぐにでも有名無実化させてしかるべきである。
本件の特徴は,当該賭博行為につき,海外で合法的なライセンスを得ている一方当事者である胴元を処罰することはできないところ,他方当事者であるユーザーを処罰しようとする点にある。
本件は,主たる地位にある一方当事者を処罰することができないにもかかわらず,これに従属する地位にある当事者を処罰することができるのか,という点が真の論点となる。
結果が出たのは,間違いのない事実である。
本日時点において,オンラインカジノプレイヤーが対象となった賭博罪被疑事件で争った案件は国内でただひとつであり,そのひとつは,不起訴となった。
言うまでもなく,不起訴は不処罰であり,何らの前科はつかない。平たく言うと「おとがめなし」ということだ。
営利の目的なく個人の楽しみとしてする行為を対象とする単純賭博罪の不当性をうったえ続けている弁護士として,この結果を嬉しく思う。そしてちょっぴり誇りに思う。
これだけ賭博罪に精通した弁護士の方がいると知っていたら、略式起訴で罰金刑を受け入れた方々も裁判で争おうと、罰金刑にサインしなかったかもしれませんが、過去の決まってしまった事案は覆らない物なので、同様の容疑で前科がついてしまった方は辛いところでしょう。
この不起訴(無罪)を勝ち取った方と、弁護士「津田岳宏」さんが導き出した結果は、きちんとした法律もないままに拡大解釈され逮捕された、これまでの「海外オンラインカジノの日本国内からの利用者」への対応に大きな変化をもたらしたのです。
最後にもう一度書いておきます。
日本国内から海外オンラインカジノを利用した場合に、賭博罪容疑で争った日本で唯一の例は「不起訴=無罪」となった。
※ 日本企業が日本で運営しているオンラインカジノで遊んだ場合は、闇カジノと同じでしっかりと胴元と参加者が単純賭博罪と賭博場開張図利罪に問われるでしょうから、全てのオンラインカジノがこの例に当てはまる訳ではありません。
また、あくまで現時点での日本で唯一の争った案件は「不起訴」でありますが、カジノ法案が可決され、カジノに対する法律の整備が進み、オンラインカジノに対する法律が明記された場合は、それによって変化が生じる場合があります。
賭博罪で悩んでいる方は専門家に相談しましょう
出典:京都グリーン法律事務所